特別支援教育

発達障がいを持つ子が筆圧に問題(強い・弱い)を持つ原因と対処法

 こんにちは。作業療法士の中野です。

 発達障がいを持つ子どもの相談にのると、かなりの割合で遭遇するのが筆圧の問題である。

 成人分野で働いていたら、書けてるんだったら筆圧なんて別によくない?とかって思っちゃうかもしれない。

 ボクも筆圧がどうこうよりも、しっかり学校の課題に取り組めている事の方が重要だと思っているけど、学年が上がる毎に筆圧の問題が課題に取り組む上での阻害因子になり得ることがある。

 これは別に発達障がいを持つ子どもに限らず、健常の子どもでも筆圧の強い・弱いはある。

 筆圧が強すぎると書くスピードが遅くなり、黒板の内容を書き写すのが間に合わなくなったり、消しゴムで消してもキレイに消しきれないから、強く消してしまってノートが破れてしまうなんてこともあるかもしれない。論文の試験とかで書くのが遅かったら間に合わないなんてこともあるかもしれない。また、筆圧が強い子どもは、肩や首にも力が入っているケースもあるので、疲れやすかったり、そのことで勉強が嫌いになる可能性だってある。

 だから、筆圧のコントロールっていうのはより幼少期に獲得出来ていたほうが良いのだ。

 今回は、筆圧の問題に対する考え方と、対策についてご紹介したいと思う。

筆圧に問題を抱える理由とは?

 筆圧に問題を抱えている場合、鉛筆の持ち方だったり、運筆も併せて問題になっているケースが多い。

 なので、ここで筆圧の問題が起こる原因を挙げていこうと思うが、それはそのまま持ち方の問題や運筆の問題にも通ずる部分があるので、併せて考えて頂ければと思う。

 まず、思いつく範囲で筆圧に問題が起こる原因について列挙してみる。

  • 手先の運動の問題
  • 鉛筆を持っている手の感覚の問題
  • 体幹・肩甲帯などの筋緊張の問題
  • 姿勢の問題

 大きく分類するとこんな感じかな。もちろん各々関連していたり、理由が1個ではなく、2つ以上の場合もあると思う。

 以下、これらの詳細について解説する。

1.手先の運動の問題

 鉛筆で文字や絵を書くというのは基本的に手関節と手指の運動で行われる。

 そして、生まれたての赤ちゃんは鉛筆をまともに扱うことが出来ない。つまり、健常でも生まれてからある程度時間を使って鉛筆を扱えるようになる。

 人間の赤ちゃんはその他哺乳類と比べて、かなり未熟な状態で生まれてくるので、神経の発達が未熟なまま外界に放り出され、生まれてからも脳神経系の発達が起こる動物である。

画像引用元:7 MUST KNOW TIPS TO HELP YOUR CHILD MASTER PENCIL GRIP
画像引用元:7 MUST KNOW TIPS TO HELP YOUR CHILD MASTER PENCIL GRIP
幼児期における筆記具把持の発達的変化
画像引用元:幼児期における筆記具把持の発達的変化

 上の2つの図は子どもの鉛筆の握りの発達段階や、握り方の種類を表したものである。

 ちなみにうちの子は既に3歳であるが、回外握りの方を優位に使っている感じ。それくらいの誤差はありうるって感じかな。経験値によると思う。クレヨンで絵を書く時と、鉛筆で絵を書く時でも持ち方は当然変わる。

 とまぁ、こんな感じで子どもの発達的に上手く鉛筆が握れず、筆圧が強すぎたり弱すぎたりするケースがある。

 また、別のケースでは握り方は上手なのに握る強さや筆圧、運筆に問題があるケースもあるだろう。

 そういう場合は、しっかり(正しく)握っているように見えるがそうではない場合という事が大半だ。手の筋緊張が低く、しっかり握れてない(から力が強くなる)、手関節尺屈位、小指球と小指MP関節周辺で手と手関節を固定し母指・示指・中指の三指で運動を起こすのが正しい鉛筆の扱い方であるが、固定が上手く出来ていないから三指の運動が上手くできないこともある。

 三指の運動を学習していないから力が入りすぎたり、弱すぎたりということもある。

 このような様々な運動の状態を鉛筆の場面だけでなく、他の場面でも評価し、問題があると考えられるなら対応していくという形になる。

2.鉛筆を持っている手の感覚の問題

 分かりやすいのは例えば手の触覚や固有受容感覚に鈍麻がある場合であろう。手で持っている・握っている感覚が無いから強く握ってしまったり、反対に弱くしか握れなかったりということが筆圧に影響しているケースだ。

 また、手と鉛筆の関係性だけではなく鉛筆と紙の接触している感覚も同じで鉛筆が紙に接触している感覚が弱いから力を入れすぎてしまったりする。

 感覚が上手く働いていない場合、手の発達が遅れている可能性も考えられるから、上記に示した発達の問題も併せ持っている可能性も高い。

 また、後で書く体幹や肩甲帯の筋緊張や姿勢にも影響を与える可能性がある問題であるから、感覚の状態に関しては注意深く評価する必要があるだろう。

3.肩甲帯や体幹の筋緊張の問題

 鉛筆で文字や絵を書くという動作は手元にフィーチャーしがちであるが、肘関節・肩関節や肩甲帯、体幹が安定している前提で成り立つ運動である。

 全ての運動に共通することであるが、運動、特に手のスキルに関しては安定性なくして成り立たない。バランスボールの上で上手に字を書ける人は少ないし、仮に書ける人が居たとしてもバランスボールという不安定な環境の中でも安定性を作る筋力やバランス能力を持ち合わせている人だけである。

 筆圧の強い・弱いという問題を抱える子どもは肘や肩周囲がガチガチに固まっている子が多い。そして、そういうお子さんは腹筋が低緊張で肩甲骨のアライメントが整っていないということが多々ある。

 体幹の安定性が肩甲帯の安定性を作り、肩甲帯の安定性が手関節の安定性を作る。その安定の上で三指の運動スキルが発達し、筆圧や運筆をコントロールできるようになるのだ。

 そして、当然体幹や肩甲帯の安定性というのは次に書く姿勢にも大きく関与しているので併せて見ていく必要がある。

4.姿勢の問題

 ボクは個人的に子どもの学習シーンを見る時、一番に姿勢をチェックする癖がある。メリット・デメリットあるかもしれないけど、姿勢に関する仕事を転々としているから仕方がない。もはや職業病。

 でも、姿勢から見えることは沢山あるし、姿勢の改善で解決する問題というのも沢山あるからボクは良いのかなと思っている。

 そもそも論、姿勢が整ってなかったら手の細かいところになど目を向ける必要もないのだから。

 姿勢に問題を抱えるケースで一番多いのが環境が整っていない事。児童デイサービスなどでは、幅広い学年の子ども、様々な身長の子どもに対して、椅子と机のバリエーションはせいぜい2つ。しかもその多くがIKEAやニトリで購入された安物。

 そうなってくると、身体にフィットした環境で学習するという環境が作られていない事が多い。どうしても姿勢の安定を欠いてしまう。

 また、座っている位置に対して、課題の位置(ノートやドリルの位置)でも姿勢は影響を受ける。筆箱や別のノートなどが邪魔をして課題を身体の正面に持ってこれない場合必然的に重心は左右どちらかに偏位する。その時に足が床についていないなどの状況であるなら、身体を中心に保つのは大変になってしまう。反対に椅子が低すぎる場合は、股関節が窮屈になって重心移動が困難になるし、腹筋が働きにくくなる(長さ−張力曲線の関係上)。

 腹部の低緊張がある場合は、円背になり、すべり座位になりやすく、肩甲骨の安定性が低下しやすい。するとやはり運筆や筆圧には影響がある。このように、姿勢を見るだけで手のスキルへの影響は多岐に渡るので、一番最初にチェックするべき項目とも言えるだろう。

筆圧に問題を抱える子どもたちへの対処法

 それでは筆圧に問題を抱える子どもたちへの対処法について解説していきたいと思う。

1.学習環境を整える

 まず最初に行うべきは学習環境の設定を見直すことである。

 なぜ最初に行うか?であるが、これだけで筆圧が改善する子どもたちが多いこと、誰でも簡単に提供できる支援であることが挙げられる。

 卓上のスペースは十分か、課題(ノート)提示の位置は身体との位置関係において適切か、足は床に設置しているかなどなど。

 姿勢の崩れも本人の身体の問題はもちろんあるかもしれないが、課題に取り組む環境に左右されることも多々ある。

 また、集中して学習に取り組める環境かどうか?も重要かもしれない。集中して取り組んでいなければ姿勢も崩れやすいし、姿勢が崩れれば筆圧にも影響する。

 机上に必要なもの以外のものがあれば集中できないかもしれないし、気が散るかもしれない。テレビが付いているとか、部屋が騒がしいとか、必要以上に見られているとか。放課後等デイや学校へ支援に行く時、普段見ない顔(ボク達)が後ろから見ていたら集中力落ちるよね。とはいえ、見ないと始まらないのでその辺も加味して見ていく必要がある。

2.姿勢を整える

 環境を整えても筆圧が改善しない場合は姿勢の状態を見て、姿勢を改善していく。

 声掛けで済む場合もあるし、何かしら聴覚以外の刺激が必要な場合もある。体格が適応するならp!nto kidsなんかは楽で良いよね。値は張るけど…。

 学校などで使う場合には、防災頭巾にもなるP!nto schoolもあるよ。

 こういうクッション使わなくても例えばタオルを折り曲げて坐骨に当ててあげるだけでも座面からの合図になるし、足部や座面にすべり止めシートを引いてあげるだけで抗重力伸展活動を促せるかもしれない。

 勉強を始める前に抗重力伸展活動を促すような関わりをしてあげても良いだろう。その子どもに応じた姿勢を良くするアイデアを実践してみてほしい。

 姿勢が整うと、肩や肘、手首に過剰に入っていた力が抜けるかもしれないし、肩甲帯の安定性が増し、手関節と手指が上手に使えるようになるかもしれない。そのことで筆圧が改善する可能性がある。

3.手の状態を整える

 手自体の筋緊張や感覚の問題がある場合、その状態を改善するようなエクササイズが必要なこともある。そういう場合、筆圧だけでなくその他の手のスキルにも問題を抱えているだろうから、その子どもの発達段階に応じた関わりが必要になる。

画像引用元:山口先生の心理学教室
画像引用元:山口先生の心理学教室

 その上で鉛筆の握り方を評価していく。

画像引用元:7 MUST KNOW TIPS TO HELP YOUR CHILD MASTER PENCIL GRIP
画像引用元:7 MUST KNOW TIPS TO HELP YOUR CHILD MASTER PENCIL GRIP

 適切な握り方が出来ていなければ筆圧に影響する。手指が上手く使えない時、環指と小指に小さなビー玉などの小物を握った状態で鉛筆を持つと握りやすくなったりする。ちなみに、うちの三才の娘は現在この方法で絶賛鉛筆練習中である。

 鉛筆の太さを変えるなんていうアイデアもある。細い鉛筆はどうしても握りにくい。握りを補助するようなグリップを付けると握りやすくなる。

 あるいは、鉛筆そのものが持ちやすいように工夫されているものもある。

 子どもの状態に合わせて選んであげると良いかもしれない。

 指の力加減を感じにくい子どもの場合には、感覚を変えてあげるだけでも筆圧が改善する場合がある。

 下敷きを敷く、下敷きの代わりに紙やすりを敷き感覚を感じやすくするというアイデアもある。

 運動を変化させるために必要なのは『合図』である。その合図を如何にして提供するかが療法士の腕の見せ所だと思っている。

4.課題を整える

 字を書くという行為は、姿勢を保持し、集中して、目でマスや鉛筆の先を捉え、非利き手でノートを押さえ、利き手で鉛筆を操作するという結構色んな能力を駆使して行われている。

 課題のレベルが発達段階や能力に合っているか?をチェックする必要がある。

 例えば1年生から2年生に上がると格段にマス目が小さくなる。すると当然小さな文字を書く必要がある。だれでも経験あると思うが、より細かい動作をするとき、無駄な力が入りやすくなるものである。

 子どもの状態に応じて、課題のレベルを調整することで、筆圧に改善が見られることもあるだろう。

おわりに

 今回挙げた例やアイデアはほんの一部であり、それが使える子どももいればそうじゃない子どもも居ることは言うまでもない。

 大事なのは筆圧の問題を抱えているその背景を適切に評価し、それを改善する方法、あるいはそういう問題を抱えながらも可能な方法を考えることが重要だ。

 まずは手のこと、手に影響を及ぼす関連事項についての知識を持ち、子どもを観察した内容から、適切な評価をして頂きたいと思う。

 あ、手について学びたい人は別のエントリーでまとめた書籍がオススメ。

参考エントリー:脳性麻痺を持つ子どもの手の発達・能力を診る為に必読の本

 ってことで、今回はここまで。ほな、また。

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