卒後教育

初めて臨床実習指導者になる療法士に必要な3つの心構え

 こんにちは。作業療法士の中野です。

 臨床実習というのは学生にとって人生を左右する大きなイベントである。

 そして、その学生の人生を左右する権限という能力以上の力を持つのが臨床実習指導者だ。

 しかし、この能力以上の力は上手く使わないとトンデモな凶器となってしまう。そして、実際に学生を自殺へと追い込むという悲しい事件も起きている。もちろん、この能力以上のパワーを上手く使えていない療法士というのはごく僅かで、少数派だとは思うが、これから臨床実習指導者になる療法士にはこの能力以上の力を上手く使いこなし、臨床家としてだけでなく臨床実習指導者としても大きく成長して欲しいと思う。

 今回はボクが経験した実習指導と、その後『人材育成』という面で学んだ幾つかを盛り込んで臨床実習指導者になるために必要な心構えについて挙げてみたいと思う。

臨床実習指導に必要な3つの心構え

jissyusido

 上図はボクが臨床実習指導を経験して思ったことや、ボクの考える臨床実習の理想像、協会の出している指導要領、コーチングや人材育成の知識や技術を統合してまとめた3つの心構えである。

 以下にその詳細を解説したいと思う。

1.山本五十六先生に学ぶべし!

 『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。』

 これは作業療法士協会から出している臨床実習指導の手引きにも引用されているし、現職者共通研修(旧 新人教育プログラム)の中の臨床実習指導に関する講義でも引用されていることが多いと思うが、山本五十六先生という日本海軍の大将を務めた方の言葉である。

 この言葉こそ、正に臨床実習合格の基準なのだ。

 臨床実習は、多くの助けや指導の上できれば合格だとされている。そして、そのプロセスはまずは自分がやっている場面を見せ、その状況を説明する。その上で学生に実際に(できれば手取り足取り)させてみて、それでフィードバックするというものだ。

 五十六先生の仰る「褒めてやる」というのは本当に成熟した指導者が行うのならまだしも臨床実習指導者に成り立ての療法士にとっては痴がましい言葉である。だから、自分がやってみせたことができたと『認める(承認する)』事だとボクは言い換えている。

 そして、この五十六先生の言葉には続きがある。

 話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。

 やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。

 この言葉は指導に当たる上での療法士の態度について重要な事を教えてくれている。

 上から目線で頭ごなしに指導するのではなく、学生の目線に立ち、学生がどのように考えているかをしっかりと聞き取り、それを認めた上でアドバイスしましょう。そして、助言・指導したら一度は自身の力で遂行可能かをチェックする意味でも任せてみようというものだ。

 そして、ここから先は実習指導の域を出て、後輩指導とか新人指導の場面に入ると思うが、そうやって指導をしてきた暁にはやっている姿を見守り、信頼して待ち、ただし助けが必要だと求められれば助け舟を出せるような姿勢でいることで人は育っていくという考えだ。

 軍隊の大将にもなると、恐らく戦場の最前線で戦うことは少なくなるだろう。(※山本五十六先生は、前線視察に行く際、その情報を傍受され狙い撃ちされ戦死されたようだが…)

 仕事は如何に優秀な軍人を育成するか?つまり言い換えれば、国家をかけた指導者なのだ。さすがにその言葉には重みがある。

2.『教育』ではなく『共育』の精神で望むべし!

 『理学・作業療法士は先生か?論争に終止符を打つエントリー』では、先生とは?という事に触れたが、昔は目上の人は全て(人生における)先生という意味で使われたが、現在では『技術などを教えてくれる人』や『指導的立場にある人』とある。

 だから臨床実習指導者は立場的には先生であるが、じゃあその実どうか?と問われればまだまだ発展途上の若手療法士なわけだから学生にとっての先生であっても自身を先生だと自認するには早すぎるし痴がましい。

 それでも、学生にとっての先生という役割を果たさなければならない。そのような矛盾のある状況で若手臨床実習指導者ができることは、学生と共に学び、育つことだろう。

 ボクなんかは経験年数だけみればそろそろ中堅どころだけど、実際の経験値はまだまだ若手。その意識を持たずして指導者にはなれない。

 ボクも偉そうにこんなブログを書いているが、コンセプトは教育ではなく、共育だ。

 是非、共にクライアントから学ぶという姿勢を忘れないで欲しい。

3.不合格とは指導力不足であるという認識を持つべし!

 『理学・作業療法実習を落とす(不合格になる)学生の特徴とは?』で書いたように、学校や学生自身の問題で実習が不合格になる場合もあるのはある。

 しかし、基本的な原則に則ると合格見込みの無い学生は実習に出てこないはずである。

 臨床実習指導者はその原則に則って指導して欲しいと思う。

 合格見込み有りと学校が判断して、実習指導者としてあなたにその学生の一定期間の教育を学校から任されるわけであるから、ボク達の仕事はその期間で学生を到達すべき点まで到達させる事となる。

 そこまで到達させられなければ不合格となるわけだから、不合格とは指導力不足以外何者でもないのだ。

 もちろん、前出のエントリーで書いたようにイレギュラーはある。こちらが真摯に取り組んでも、学生や学校が真摯に取り組んでくれないこともあり、学生を不合格にさせる事もあるかもしれない。

 しかし、その時にも全てを出し切った自負の元に不合格にして欲しい。最初から偏見を持って指導の手を緩めるようなことはあってはないらないし、最後の最後まで自分にできることをやった末に不合格にして欲しいと思う。

ボクの苦い経験

 ボクの最初に就職した職場はOT3人の小さな施設だった。で、1年目からケースバイザーとして実習指導をかじらせて頂いていた。

 ボクの苦い経験は1年目の二期目。

 学校からも出来が悪いというレッテルの貼られたボクの母校の直接の後輩が実習でやってきて、ボクがケースバイザーとして学生の主担当をすることになった。

 本当に出来が悪いけど、真面目でやる気だけはあった。だから、ボクも頑張って色々伝えたけど、学生にはそれを理解することができなかったようだ。

 で、結局スーパーバイザーであるボクの上司は彼女を不合格にした。このレポートは中野君の意見だよね…ってフィードバックと共に…。

 いやぁ、悔しかったよね。これは。

 スーパーバイザーは実習初期から諦めて指導しようとも思ってなかった癖に、評価だけいっちょこまえにやって、マジで腹立たしかったことを覚えている。

 もちろんボクの指導力不足が一番の原因だし、そもそも一般レベル以上に理解力の低い学生を送り込む学校にも責任はあったし、何なら実習担当の先生からも遠慮なく落として下さいって言われてたし…。色んな問題があったとはいえ、ちょっとこのスーパーバイザーである上司の指導姿勢には問題あるんじゃね?って思った。

 それ以来、ボクはそういう不幸な学生が世の中から消えることを切に願っている。

おわりに

 結果彼女は次の年も実習がうまく行かず学校を退学することになる。

 もちろん実習を合格し、国家試験に合格すれば直接クライアントに迷惑をかけることになる。だから、問題のある学生をふるいにかける最後の登竜門が長期実習だ。

 しかし、そこで問題になるような学生を実習に出してはいけないし、高卒レベルとして最低限の理解力の無い学生をそもそも入学させるべきではないと思う。

 もちろん、少子化と養成校乱立、更には大学全入時代という流れを受け業界では学生の奪い合いになっている。

 バカでも何でも入学させたもん勝ちってな感じになるのは分からなくもない。それは入学させる方にも問題があると思う。

 だから責めてさ、3年、4年で実習に出て問題が起きるような学生って1年の時点で予想できるだろうからさ…。1年の時点で別の道を促してあげるのも療法士である養成校の教員の仕事なんじゃないかな?

 ってまぁ、そんな他の問題をはらんでいるのが現状ではあると思うけど、臨床実習指導者になる療法士には、そういう諸事情は置いといて原則に則った指導を心掛けて欲しいものである。

 ってことで、今回はここまで。ほな、また。

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