特別支援教育

脳性まひ児の摂食・嚥下障害の概要とリハビリテーション

 こんにちは。作業療法士の中野です。

 本日は脳性まひ児の多くに見られる摂食・嚥下障害についての背景、臨床像とリハビリテーションについてまとめたいと思う。

 食事。それはただの栄養補給の手段ではない。特に重度障害児・者にとって栄養補給だけを考えるのであれば経管栄養や点滴の方が効率的である。

 目で楽しんだり、耳で楽しんだり、鼻で楽しんだり、味だけでなく食感で楽しんだり…。また、それだけではなく、家族とのだんらんであったり、友人との仲を深めたり、異性を口説いたり…。

 食事の持つ意味は単に栄養補給ではないことは誰しもが実感しているだろう。

 しかし、脳性まひを持つ子ども達にとっては栄養補給以外の意味を得られないばかりか、食事自体が苦痛になっているケースも少なくない。彼らの食事に対して介入することは彼らの人生をより良いものにして行くためには必須だと言えるだろう。

脳性まひ児の摂食・嚥下障害の背景

 何故脳性まひ児は摂食・嚥下に問題を抱えることが多いのだろうか。それは脳性まひの神経損傷が成人の脳卒中と比べ広範囲に渡ることや、成人は一度獲得した摂食・嚥下機能の障害であるのに対し、子どもはこれから獲得するはずの機能で未発達という面が大きいだろう。

 以下、摂食・嚥下のプロセスに沿って脳性まひ児の摂食・嚥下障害の臨床像についてまとめたいと思う。

先行期(認知期)

 食事をする際、まず空腹であり食べたいという欲求から始まる。ボク達は大人は半分習慣になっていて、空腹でなくても時間になったら食べるという癖があるが、子どもはそうではない。

 まず空腹を感じ、食べたいという欲求が湧くところから食事は始まる。

 赤ちゃんであれば泣いておっぱいを要求するし、ある程度コミュニケーションが取れるようになったらお腹すいたと言うだろう。お味噌汁の香りがしてくればいつの間にか食卓に座っているような食いしん坊もいるかもしれない。しかし、それらはまず欲求があることが前提である。

 覚醒が低かったり、胃食道逆流などで食欲を阻害されていたりすると食べたいと思わないかもしれないし、口腔内が過敏で食事の刺激が痛みや不快に感じてしまっているケースでは食事をしたがらない事もあるだろう。また、大人でもあることだが便秘など消化器官系の問題でお腹が張っていたりすると食欲が減退する原因になる。

 空腹を感じ、食事をしようと食卓についても視覚に問題を抱えるケースでは食事の見る楽しみを味わえていない事もあるかもしれない。料理を見る、香る、音を楽しむのは食事の醍醐味の一つである。これらを阻害されているのは、食事を健全に楽しめているとは言えないだろう。

口腔準備期(食物を口腔内に取り込む)

 食物を口腔内に取り込む際、一番問題になってくるのが「口を開けてくれない(開口制限)」というところだろうか。もちろん、先行期で挙げたように食欲の問題があり、食べたくなくて意図的に口を空けないこともある。これは健常児にも見られてうちの子どもたちにもあった。しかし、意図的に口を空けないって事じゃなく、開けたくても空けられないケースがある。

 筋緊張の亢進により、随意的に口を開けることが難しかったり、緊張性咬反射の残存で噛みしめてしまったりということが原因となる。

 また、反対に閉じられない過開口という状況もある。全身の伸展パターンの影響を受けたり、相反神経支配の異常によって過剰に開いてしまったりする。口が閉じないと食事を口へ取り込む事ができない。例えばスプーンで上下の歯を開いたまま口唇を閉じるという分離した運動が必要だが、筋緊張の亢進で阻害されているケースが多く、介助者によって無理矢理放り込まれるといことが常である。

 口唇の感覚過敏でスプーンや食物が触れられることを嫌がるケースも稀ではない。

 口に食物を取り込めてもsucking patternの遷延や舌の緊張亢進、舌の感覚過敏などにより、舌を突出させてしまうケースもある。折角取り込んだ食物が口外へ出てしまったり、咀嚼が阻害されたりしてしまうのだ。

口腔期〜咽頭期(咀嚼〜嚥下)

 ここまで書いてきた筋緊張の問題、原始反射の残存などなどの原因により閉口したまま咀嚼運動ができず開口したままの咀嚼となってしまったり、舌の運動障害によって食塊を咽頭へ送り込むことが困難だったりする。

 嚥下での一番の問題はご縁だろう。誤嚥性肺炎は脳性まひ児の状態を著しく悪化させる原因の一つである。咀嚼の問題により食塊形成不良が原因になったり、咽頭挙上や咽頭収縮が不良なケース、嚥下反射の遅延原因となる。

 また、嚥下の良し悪しを決める上で重要なファクターは頭部のコントロールである。姿勢保持機能が充分でない場合、嚥下が上手く行かないケースは少なくない。

脳性まひ児の摂食嚥下障害に対するリハビリテーション

 具体的なアプローチを考える前に脳性まひ児の摂食嚥下障害に対するアプローチは大前提として考えておくべきことが3つある。

  1. チープアプローチ
  2. 母親や介助者への配慮
  3. 長期的な視野

 例えば胃食道逆流や呼吸障害との合併においては医師との連携が必要不可欠である。食形態などについては栄養士・調理師との連携が必要だし、POSTの中でも協力していかなければいけない。

 そして理想的な介入方法が決まったとしても、普段食事介助する母親や介助者の理解が得られなければ継続されることはないだろう。

 また、子どもへのアプローチは今だけが大切なわけではない。5年後、10年後を見据えたアプローチを今からやっておく必要がある。長期的な視点を持ったアプローチを行うことが大前提として重要だ。

摂食嚥下障害に対する具体的介入方法

 では、以下に具体的な介入方法をまとめていこう。

 今回取り上げるのは、どんな多くの脳性まひ児にとって必要になるだろう以下の5つだ。

  1. 姿勢コントロール・ポジショニング
  2. 口腔コントロール
  3. スプーンでの食べ方、コップでの飲み方
  4. 咀嚼の指導
  5. 食形態の検討

 これら5つの項目について詳しくまとめたい。

1.姿勢コントロール・ポジショニング

画像引用元:Adaptivemall.com
画像引用元:Adaptivemall.com

 食事へのアプローチをしていく上で一番重要なのが姿勢コントロールであり、姿勢コントロールが難しい子どもに関しては、ポジショニングする必要がある。それはスムーズに摂食行為を実施する準備であり、安全に嚥下する準備である。

 通常ボク達健常成人は、基本的には背もたれも使わず端座位にて食事することが多い。それは体幹が安定し、頭頸部を自由にコントロールできることや、上肢操作がスムーズにできているからなせる技なのである。

 摂食・嚥下機能に問題を抱える子どもたちが食事を行う場合、まず頭部の位置をどこで安定させるべきか?について考える。咀嚼や嚥下がしやすい角度、頸部の筋緊張が落ち着く角度を選定する必要がある。

 成人の場合、体幹の角度を30°に設定することが誤嚥防止に適していると言われている。これは脳性まひ児の場合でも多くの場合正しいのだが、30°傾けることで全身の伸展パターンを誘発し、頭頸部を安定させにくくなるケースがある。また、伸展パターンが出現している状態で頭部を屈曲させると咀嚼がしにくくなり、かえって嚥下を妨げるケースもある。

 特に子どもの場合は個別性が高いので、その子どもが最も能力を発揮しやすい角度をVF検査なども利用しながら評価しておく必要があるだろう。

 最適な食事姿勢をどう保つか?ボクは個人的には早期からの座位保持装置の利用を勧める。何より介助者の負担が小さくなるからだ。食事は1日3回、1回につき約1〜2時間の介助が必要になる。仮に1回の食事で2時間かかった場合、1日の合計が6時間、お母さんの日中の平均活動時間を18時間と仮定すると1日の1/3を食事介助に費やすこととなる。

 これは子どもにとっても深刻で、1日の平均活動時間を12時間とした場合、1日の半分を費やすことになる。

 もちろん、これはオーバーケースかもしれない。しかし、子どもにとっても、介助者にとっても食事の介助は大きな負担になるのだ。その負担を少しでも和らげるために抱っこでの介助ではなく、座位保持装置の導入を検討すべきだろう。その時々に応じて、あるいは成長に応じて変化させられるように、座面角(ティルト角)・背座角(リクライニング角)へヘッドレストの位置を自由に調節できるものが便利である。

 口から食事をする子どもだけでなく、経管栄養の場合も消化器官が働きやすい角度というのがあるので、ベッド上で注入するより、座位保持装置上で注入する方が子どもにとって効果的な場合も多いので、合わせて検討してほしい。

2.口腔コントロール

画像引用元:The Importance of Postural Control for Feeding
画像引用元:The Importance of Postural Control for Feeding

 一般的には下顎や舌骨のコントロールの事を言う。

 子どもが難しい運動をしやすいように手伝ったり、望ましくない運動を制御したりするために行う。

 また、食事前の準備運動として口唇や口内、口周囲への脱感作を行ったり、嚥下時の喉頭蓋の運動を促通したりという目的もある。

 口腔コントロールにより、摂食・嚥下機能が向上するというデータもあるが、もちろん大前提として姿勢コントロールが重要であることは言うまでもない。

 口腔コントロールを行う際は、子どもの自発的な動作の妨げにならないように注意すること、そして過介助にならないよう注意することが重要である。

3.スプーンでの食べ方、コップでの飲み方

画像引用元:Ability Online
画像引用元:Ability Online

 健常児であれば2歳前後から獲得し始めるスプーンでの食事、そしてコップでの飲水というのは実に様々な能力に支えられて成り立っている。

 姿勢がしっかりコントロールできていることはもちろんとして、食器や食物をしっかり目で捉え、その先に正しくリーチし、スプーンですくい、正しく口へ運ぶ。これは健常児でも始めた頃はとても難しく、口の周りや衣服を汚すことなど毎食後の話である。

 飲水であれば、下顎が安定し、口唇を選択的に動かせるようになるのが必要であるし、食物に比べて水分は本人の意図に反して咽頭へ流れていく可能性もあるので口腔内コントロールは極めて高い能力が必要となる。

 まずはスプーンやコップを使って一人で食事動作をクリアするということにどのような機能が必要か?という活動分析をした後、この子どもはどの部分で躓いているのか?それはトレーニング次第で獲得可能な機能なのか、あるいは何かしらの方法で代償する必要があるのか、その代償的方法は児の人生に不具合をもたらさないか?など様々な視点を持ってアプローチする必要がある。

4.咀嚼の指導

画像引用元:Cerebral Palsy Guidance
画像引用元:Cerebral Palsy Guidance

 まずは咀嚼の条件を知る必要がある、咀嚼は閉口して行うので鼻呼吸ができていなければならない。これは飲水の条件とも重なる為、鼻呼吸ができるかできないか?は摂食・嚥下機能を評価する上で重要なポイントとなる。

 また、吸啜反射や咬反射の残像は咀嚼運動の妨げとなるので、それらの状態を評価しておくことも必要である。また、これら反射が残存している状態で咀嚼を促すにはどうしたら良いか?というのも大切な視点である。例えば吸啜反射は食物が舌に触れることで誘発されやすいという特徴があるので、食物を口の側方から入れ、直接臼歯の上に置くという事も考えられる。このように直接臼歯の上に置くという場合、後でも触れるが食形態にも注意を払う必要が出てくるだろう。

 口唇を閉じておくことが困難であれば、口唇を閉じる運動を練習しなければならない。最初は療法士が介助しながら、自動運動を促すような関わりが必要になってくるだろう。

 上述の内容は咀嚼運動に対してのアプローチであるが、その前段階として、フェイシャルコンディショニングを整えておく必要もあるかもしれない。咀嚼に必要な筋群が動きやすい状況を作っておくことでより咀嚼がしやすい状況を作れるかもしれないし、伸展パターンが強いような子どもにおいては頭部の位置を整え、緊張を緩和した状態を作っておくことも重要である。

5.食形態の検討

画像引用元:wise GEEK
画像引用元:wise GEEK

 咀嚼・嚥下の能力によっては食形態を考える必要がある。食形態を考える上での視点は以下の2つだ。

  1. 食塊形成のしやすさ
  2. 誤嚥しにくい

 食塊形成・嚥下のしやすさで言えば、プリンやヨーグルト、すりつぶした穀物などが挙げられる。固さの異なる食材が混在していたり、きざみ食は口の中で分散し、食塊が形成しにくく、且つかけらを誤嚥しやすい。

 また、パンなど口腔内の水分を奪うような食材は硬口蓋に張り付いたりして食べにくかったりする。

 消化器官の発達などのことを考えても、離乳食から普通食への変化を応用して考えるとわかりやすいだろう。

おわりに

 一言で脳性まひ児といっても色んな子どもが居るのは当然だ。健常児であってもうちの子とお隣の子どもは発達のスピードも得意なことも、好きなこともぜんぜん違う。

 摂食・嚥下が得意な子どももいれば、苦手な子どもも居る。それが当たり前である。

 ボク達は、その子どもの食事がどのような状態にあるかを把握し、その状態に合わせた介入をする必要があるが、その大前提として姿勢コントロールは極めて重要であることを再度書いておきたい。

 姿勢コントロールができていないないところに、理想的な食事はあり得ない。まず子どもに適切な姿勢を選定し、子どもの摂食・嚥下機能に合わせた介入計画を立てて頂ければ、子どもの発達にも介助者の負担軽減にも貢献できるだろうと思う。

 このエントリーが、担当している子どもと家族の楽しい食事の支援となるきっかけになれば幸いである。

 ってことで、今回はここまで。ほな、また。

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