生活行為向上マネジメント

作業とは?作業療法とは?の答えからMTDLPを考える

 こんにちは。作業療法士の中野です。

 作業療法って何だろう?作業って何?なんて事に悩んでいる人は未だに少なくない。

 何故なら、きっといつまでたっても答えなんて出ないからだ。

 ボクは、きっとこれが作業療法だなっていう意見は持っているが、それが正解だとは思わない。

 生活行為向上マネジメントの中でも「生活行為」について定義されているものの、「作業療法」については触れられていない。生活行為向上マネジメントが「熟練作業療法士の頭の中を定式化したもの」とされているにも関わらずである。

 今回は、その作業療法と、生活行為向上マネジメントの関連について明確にしようと試みたのでその内容をシェアしたいと思う。

作業とは?作業療法とは?

 ボクの意見については別のエントリーで書いているので参考にしていただきたい。

参考エントリー:作業を用いて治療をする作業療法とは?個人的に定義してみた

 今回読みなおしてみたが、ボクの意見はWFOTの定義に準じていると思ったので紹介しておきたい。

 WFOT(世界作業療法士連盟)では作業療法について以下のように定義されている。

 作業療法はクライアント中心の健康専門職で、作業を通して健康と安寧を促進する。作業療法の基本目標は、人々が日常生活の活動に参加できるようになることである。作業療法士は、人々や地域社会と一緒に取り組むことにより、人々がしたい、する必要がある、することが期待されている作業に結びつく能力を高める、あるいは作業との結びつきよりよくサポートするよう作業や環境を調整することで、この成果に達する。

 ボクがこのWFOTの作業療法の定義に感銘を受ける点は以下の部分。

  • 作業療法は健康専門職
  • 基本目標は、人々が日常生活の活動に参加できるようになること(つまり障害者のみではない)
  • 人々がしたい、する必要がある、することが期待されている作業に結びつく能力を高める

 この3点だ。

 まず、作業療法士は健康専門職である。作業を用いてクライアントの健康に介入する仕事であるということが名言されている。そして、作業療法士の対象は障害者ではなく、「人々」である。健康的に作業を遂行できていない人々は全て作業療法の対象としている。(ここに保険の適応があるとかないとか関係がない。)

 そして、クライアントのしたい作業、すぐ必要がある作業にだけ焦点が当てられがちだが、期待されている作業にも焦点を当てる事の必要性が書かれている。

 このWFOTの定義は素晴らしい。

 また、作業については以下のように定義している。

 人が自分の文化で意味がある行うことのすべて(all the things that people do that are meaningful within their culture)である

 ちょっとこれだけでは分かりにくい。この分かりにくさをアメリカとカナダの作業療法士協会が出している定義は埋めている。

 作業とは,日常での活動や課題の集まりで(groups of activities and tasks of everyday life),名付けられ,組織化され,個人と文化によって価値と意味が与えられたものである(named, organized and given value and meaning by individuals and a culture).

 つまり、一つ一つの活動や課題を作業というのではなく、それら活動や課題によって構成されるものが作業であり、その作業には、個人的・文化的な意味と価値が付随しているということになる。「意味のある作業」なんてフレーズが使われる事があるが、そもそも意味の有ることが作業なわけだから、意味のある作業という表現は間違っているということになるだろう。

 歯を磨くという活動や、歯ブラシでゴシゴシするという課題そのものを作業というわけではなく、虫歯や口臭の予防の為の活動全体が作業でありそれは歯磨きだけではなく、例えばキシリトールガムを噛むことであったり、フロスで磨くことも含まれるし、モンダミンでガラガラやることや口臭予防のスプレーをシュシュっとやることも含まれるということだ。

 個人的・文化的な意味や価値が付随しているということがポイントだろう。

生活行為向上マネジメントとは?

 生活行為向上マネジメントでは、生活行為、生活行為向上について以下のように定義されている。

 生活行為とは… 人が生活していくうえで営まれる生活行為全般のこと。生活全般の行為とは、セルフケアを維持していくための日常生活動作(ADL)の他、生活を維持する手段的日常生活動作(IADL)、仕事や趣味、余暇活動などの行為を全て含む。

 個人の活動として行う排泄する行為、入浴する行為、調理をする行為、買い物をする行為、趣味活動をする行為などの行為をいう。

 生活行為向上とは… 各生活行為について利用者が本来持っている能力を引き出し、在宅生活で実際にその能力を活かすこと。もしくは活かされるよう、身体的・精神的な支援を行うこと

 それぞれこのように定義されている。

 作業とは?作業療法とは?って部分より随分これまでの作業療法って感じの定義だ。まぁ、高齢者支援をベースに作られているから仕方がないかもしれないけど…。ちょっと「う〜ん」って思う。

 この定義を見る限り、生活行為を作業と捉えて良さそうだけど、作業の持つ包括的な意味合いよりも少し限定的な表現が使われているように思う。

 前述しているように「活動や課題」群に個人的・文化的意味が付随したものを作業として捉えるなら、生活行為向上とは、何らかの原因によって満足できなくなった個人的・文化的な意味や価値を引き上げる事と言わるだろう。

 「活動や課題の意味」を失った状態はその人にとって健康を害した状態、あるいは安寧さを失った状態であり、作業療法士の役割は失った意味を取り戻すことと言えるだろう。

 生活行為とは、作業であり、生活行為向上は作業療法である。

 作業療法を効率的に、且つ的確に遂行できるように、作業の要素を分析し、改善のための計画を立て実行するというプロセスこそ生活行為向上マネジメントと言えるのではないだろうか。

生活行為向上マネジメントの目的

 作業療法マニュアルには生活行為向上マネジメントのねらいとして以下のように記載されている。

 臨床経験が1年目の作業療法士であっても、本マニュアルとMTDLPのツールを活用しトレーニングすることで、熟練作業療法士の思考過程を理解し、対象者に対して、より効果的な作業療法を提供することを期待している。

 また、MTDLPは、作業療法の対象である患者または利用者(対象者)と支援目標を共有し、対象者が自分の回復に積極的に関与できるよう工夫されている。

 要約すると以下の通り。

  • 全ての作業療法士の提供するサービスの質を担保すること
  • クライアントに自ら積極的に作業療法に参加してもらうこと

 あくまで、作業療法士が作業療法を行う上でのツールとしての役割だ。

 また、「生活行為向上マネジメントの理論的位置づけ」という部分では以下のように記載されている。

 使用されるシートは、熟練作業療法士の思考過程と作業療法実践のプロセスを定式化したもので、心身機能の回復を促す練習に終始せず、対象者の活動と参加を促進する作業療法の実践、さらに、本人・家族・支援者との連携を促進するツールとしても使用される。

 つまり、上記2つの目的に加え以下の二点も目的として挙げられる。

  • 機能回復だけでなく、活動や参加を目的に置く
  • 本人だけなく、家族や多職種との連携の為のツールとして使う

 このように生活行為向上マネジメントはクリニカルリーズニングのツール、クライアント本人や家族・多職種との意思疎通の為のツールとしての役割が大きく、作業療法そのもののやり方をどうこう追求したものではない。

 具体的な方法論は各作業療法士の裁量に任されていると言えるだろう。

 具体的な方法論について、日本作業療法士協会が出しているガイドラインに挙げられているが、それらは従来の作業療法によくあるペグボードやレクリエーション関連活動、手工芸関連活動、ADLであり、これまで示してきた「作業」の意味に沿うようなものではないとボクは思う。

 作業療法は、クライアントの希望する、必要とする、周囲から期待される作業に対して意味を取り戻す為の働きかけであり、その結果と、結果を出すために必要な考え方こそが専門性であり、方法論は問わないものであると言えるかもしれない。

 だからこそ、生活行為向上マネジメントはマネジメントツールであり、方法論を問うていない。

 例えばベッド上背臥位での関節可動域訓練や筋力トレーニングを提供していたとしても、そのことによりクライアントが目的とする作業を
獲得できるのであればそれで良いってことのはず。

 逆に、自分で風呂に入りたいというクライアントに対して風呂場での入浴動作を練習するだけの作業療法に意味があるか?

 「自分で風呂に入りたい」という希望は、先ほどからの作業の定義に則ると、活動の希望であり作業ではない。作業とは個人的・文化的意味が付随するものである。

 クライアントが自分で風呂に入るということにはどういう意味があるのか。例えば入浴動作が自立したとして、それは作業の獲得に繋がるのだろうか。クライアントの本当の希望は何で、失ってしまった意味は何なのか?

 その意味を取り戻す事を目的とした、入浴動作という課題の提供であれば作業療法になるかもしれないが、その思考回路をすっ飛ばせば何も考えずROMの拡大だけを目的に行う関節可動域訓練と入浴動作の獲得だけを目的に行う入浴動作訓練は何ら変わりないだろう。

 作業療法っぽいことをやっているだけで、やはりこれは作業療法ではない。

 生活行為向上マネジメントは、作業療法士が行う介入に意味を与えてくれるツールだが、それを分からずに使うと、作業療法士が行う作業療法っぽいことをする為の一手法となるに終わるだろう。

生活行為向上マネジメントを有効活用するために必要なこと

 では、どのようにすれば生活行為向上マネジメントを有効活用できるであろう。

 それは、全ての作業療法士が今回ボクが行ったような定義や用語の意味について理解を深めることだろう。

 意味を知らずに実践できるはずがない。

 『生活行為向上マネジメント』もそうだ。基礎講習や演習でその理論的背景や使い方などについて学ぶかもしれないが、作業療法との関連性などについて講習会では習わない。(少なくともボクは習った覚えがない)

 作業療法士にとって、クライアントの作業を取り戻す為にある生活行為向上マネジメントという認識があまりに薄いようにボクは思う。

 活動や参加に焦点を当てる理由はなんだろうか。それは作業とはクライアントの身体的・精神的機能だけで成り立っているものではないからだ。

 「食事」という活動を取り上げても、そこにある意味は人それぞれ違う。文化が違えばその活動が持つ意味も違う。一人暮らしの人と家族で住んでいる人にとっても違う。

 作業療法は、食事動作の獲得を目的にするのではなく、食事の持つ意味を獲得するために行うべきものであるということを、知った上で生活行為向上マネジメントを使えば有効なツールとなるだろう。

 しかし、食事動作を獲得するために使ってしまえば、食事動作の獲得ツールとはなり得ても作業療法のツールとはならない。

 その辺を理解した上で使わないとせっかくのツールも報われないよね…。

おわりに

 例えば、クライアントの食事動作獲得が作業の意味を取り戻す上で非常に重要だったとしよう。

 すると、全ての介入に意味をもたせる必要がある。例えば食器の選択や配置、食事内容の選択、食べ方、食べる順番、食器の使い方などなど、全ての介入に意味を持たせる必要が出てくる。

 生活行為向上マネジメントをしっかりと使えば、それら全てに根拠を持たすことが可能だ。

 療法士の手でクライアントを触るなら、その触る場所や触るタイミング、触る順番、触る強さ。全てに意味が必要だが、多くの方はその意味を持っていない。

 しかし、ほんとうの意味でしっかりと生活行為向上マネジメントを使えば、それらを考えるに至るはずだ。そのように分析シートができているからだ。

 そして、その内容を家族や多職種と共有するから連携して作業を獲得するための支援ができるようになるってわけ。

 その辺考えてこのツール使わないと、宝の持ち腐れになりそうだし、現状どんどん腐りつつあるんじゃないかなって思ってしまう。

 この素晴らしいツールをより光らせるために全ての作業療法士は努力していく必要があるだろう。

 ってことで、長くなったけど今回はここまで。ほな、また。

参考・引用文献

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