評価と治療

理学・作業療法の運動学習効果を促進する「加重」について

 こんにちは。作業療法士の中野です。

 リハ室でできるようになった事をを病棟や自宅でできるようにならなければ全くの無意味である。

 これは多くの療法士にとって当たり前の事だ。しかし、同時にそれが難しいことでもある。

 そして、それを可能にするのが人間に備わっている「運動学習」という機能だろう。

 別に特別なことではない。記憶である。

 今回は、特に理学・作業療法で提供する内容をクライアントに効率的に学習してもらう為の考え方についてシェアしようと思う。

記憶のメカニズムについて

 記憶には「短期記憶」「長期記憶」という分類がある。

 リハ室ではできるけど、自宅ではできない。ってのは「短期記憶」はできたけど、「長期記憶」ができなかったということである。

 また、記憶を細かく分類すると、「記銘」「保持」「想起」という3つのプロセスに分けることができる。

 記銘とは、つまりインプットである。それを脳内にファイリングして保存し、必要なときに引っ張りだす(想起する)というプロセスだ。

 作った文書をファイルで保存し、必要なときにクリックするとまた、途中から文書が作成できるというまさにそんな仕組みである。

 こちらも運動学習に置き換えてみると、「経験」「保持」「運動」というプロセスに当てはめることができるだろう。

 療法士の介入によって求める運動をまず経験する。その内容を脳内に保持し、最終的には療法士の介入がなくても実行できるという感じだね。

クライアントにとっての運動学習

 では、クライアントが運動学習していく際にはどのような事が身体で起こっているのであろう。

 それは様々な感覚受容器から、運動の情報を脳に送っている。

 その情報が正しい運動の情報であれば、その運動が記憶されるし、連合反応や代償運動などあまり好ましくない運動の情報を送ってしまえば間違った運動学習が行われる。

 例えば、脳卒中の維持期のクライアントをイメージしてみよう。いわゆるウェルニッケマン肢位で、ぶん回しながら歩けている人だ。

 この人は、下肢の選択的な運動を学習せず、股関節屈曲位でバランスを取りながら足を擦らないように歩くという事を学んだ結果こういう歩き方になっているのだ。

 なぜ、こういう歩き方を学習したのか。療法士が正しい介入をせず、あるいは介入していたが、生活場面で実践できず、独自の方法を学習してしまったのだ。では、何故間違った方法を学習するのか。

 脳は結果を求める。つまり、あれが欲しいと思ったらその過程(歩き方とか運動の手段など)にはこだわらない。もちろん、効率的な運動方法を考えるのだが、障害を負った人々は往々にして身体図式が崩れており、理想的な運動プログラミングができなくなってしまっている。

 理想的な運動プログラミングができなければ、正常運動における効率的な運動を選択できない。だから、自分の持つ身体図式下における効率的な運動プログラミングをしてしまう。

 そのプログラミングで運動を実行するから理想的な運動をしてしまう。それで成功すれば、次からも同じ方法でやるようになる。

 何度も何度もそれで成功すると、脳は報酬をもらえるから気持よくて、それを繰り返す。そしてその繰り返しの結果学習が起こる。

 まさしく受験勉強のプロセスだよね。

 つまり、療法士がいくら介入して理想的な効率の良い運動方法を提示しても、他のスタッフやあるいはご自身で別のやり方を繰り返せばそちらを学習してしまう。

運動学習は繰り返し(加重)によって起こる

 ここまでの内容で運動学習は繰り返し(加重)によって起こることが分かって頂けたと思う。

 フリースローと一緒だ。フリースローも正しいフォームで繰り返し練習すれば(精神的なプレッシャーなどがかからないシーン、疲労などでフォームが崩れるシーンでなければ)100発100中となる。

 つまり、療法士はクライアントに正しい方法で加重させていかなければならない。

セラピー場面での加重

 セラピー場面における加重は、以下の2つが考えられる。

画像引用元:中枢神経系の機能総論
画像引用元:中枢神経系の機能総論
  1. 時間的加重
  2. 空間的加重

 例えば理想的な運動を行う際に働いて欲しい筋を刺激し活動を促通したいとする。

 そしたら、その筋に対して何度も刺激を加えるという方法がある。それが時間的加重だ。

 あるいは、その運動に必要な刺激を一つの情報だけでなく、複数の部位から提供するのが空間的加重である。

 療法士はこの時間的加重と空間的加重加重を促すことで、クライアントの運動学習を促していく。

日常場面での加重

 例えば、POSTの3職種が関わる回復期病院に入院しているクライアントをイメージしてみよう。

 この中で理学療法士だけが、クライアントにとって理想的な運動を考え、セラピー場面で理想的な運動情報を加重していたとする。しかし、作業療法士と言語聴覚士がその運動を無視した介入をしたとしよう。すると、理学療法の終了時点では理想的な運動が可能になっていたクライアントも、作業療法士と言語聴覚士によって間違った方法を学習させられてしまい上手く運動ができなくなるなって自体もありうる。

 特に運動の再獲得時期である急性期・回復期のリハにおける情報共有と連携こそ、クライアントに理想的な運動学習を促す重要なポイントになるだろう。

 もちろん、これはリハだけではなくナースやご家族とも情報共有しておかなければならないし、退院後に関わる多職種に対しても情報共有すべき内容だ。

 こうやって連携がしっかりできていれば、クライアントは独自の間違った情報の学習をする機会が随分減るだろう。

おわりに

 今のご時世、全ての療法士が運動学習の重要性は知っているだろう。

 運動学習を意識せずに介入しているなんて、もはやプロではない。

 しかし、どのような運動を学習してもらうか?ってのはもっと重要であり、療法士がクライアントの運動を阻害する介入をしている可能性もあるって事を知っていて欲しい。

 そして、リハ職種同士、あるいは病棟との連携が上手く行っていないことでクライアントの運動学習を阻害していることもありうる。

 ボク達はクライアントの長期記憶へ理想的な運動を保持させるための関わりを意識しなければいけないだろう。

 ってことで、今回はここまで。ほな、また。

追伸…運動学習をベースにしたPNFやボバースコンセプトに関するエントリーまとめました

 運動学習に基づくアプローチであるPNFやボバースコンセプトに関する内容をまとめたので、他にも知りたい方は是非参考にして頂きたい。

参考エントリー:

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