評価と治療

脳血管障害後遺症者の坐位姿勢が悪い原因として「腹部筋緊張低下」は本当か?

 脳血管障害後遺症者の坐位姿勢はことごとく悪いことは、多くの療法士がご存知の通りだろう。

 円背、重心偏位など、目的とする作業の弊害となるいやゆる問題点として理学療法士・作業療法士問わず話題に昇ることだと思う。

 重心偏位に関しては麻痺側臀部の感覚入力の問題や、筋緊張の低下(あるいは亢進)はフムフムと頷ける。

 しかし、円背を呈する脳血管障害後遺症者の(疾病に起因する)原因として腹部筋緊張の低下は果たして本当なのだろうかと疑問に思う。

 恐らくこの疑問はボクのように健常者をクライアントとして仕事をしている身だからこそ持つ疑問だと思うので、今後の臨床活動にこのような現状があるという事を知って活動して頂ければこれ幸いかと思いシェアしようと思う。

腹部筋緊張低下における坐位姿勢への影響

 多くの療法士が坐位での良肢位を保持するために腹筋群の協調的な活動が必要なことを知っているだろう。

 そして、脳血管障害によってその働きが鈍化することも。だから、円背が問題であり、腹部低筋緊張が問題であることは間違いではない。

 腹筋群の協調的な活動は重要であり、脳血管障害後遺症者はその働きを失っているケースは大いに考えられる。

麻痺とは運動学習の喪失と定義し直すと真実ではないかもしれない

 麻痺とは何だろうか。筋緊張の正常な働きが失われた状態だったり、感覚が正常に働いていない状態など様々な言語で表現される。

 それを最近の動向で定義しなおすと「運動学習が失われた状態」と定義しても間違いではないだろう。

 多くの療法士には賛同して頂ける定義だと思う。

 しかし、このように定義するとたちまち坐位姿勢不良の問題が腹部低緊張ではなくなってしまうのだ。

 何故なら、腹部低緊張が問題となるということは、発症前のクライアントが腹筋群の活動をしっかりと使った坐位を取っていたことが条件になるからだ。

 腹筋群の活動がしっかりと学習されたクライアントが、脳卒中の発症によりその学習を喪失(あるいは鈍化)させたのであれば、問題点としては妥当である。

 だが、発症前から円背だったとしたら運動学習の喪失ではなく、未獲得なわけだから、このケースにおいては問題視するのは間違いなのではないか?とボクは思うのだ。

現代人の坐位姿勢

 で、ボクは毎日のように現代人の坐位姿勢と向き合っている。

 子どもから大人まで、教科書に載るような良肢位を獲得している人は殆どいないのが現状である。

 つまり、現代人は正常な坐位姿勢を獲得していない。

 ここで、健常者は口頭指示によって良肢位を取れるから運動学習はできていると指摘する人もいるだろう。しかし試してみて欲しい。あなたの同僚が口頭指示にて良肢位を取れるだろうか?

 実は多くの場合、良肢位には程遠い姿勢となってしまうのだ。

 現代日本人において、理想的な坐位姿勢を獲得している人は極めて少ないというのが現状だろう。

喪失と未獲得によるアプローチの違い

 小児領域で働いているとしばしば話題に挙がる話ではあるが、喪失したことの「再学習」と未獲得なことを「学習」していく過程はまるで違う。

 再学習においては使えるヒント(材料)が多分にあるが、学習しようと思うとヒント(材料)を全て療法士が準備する必要がある。つまり、環境設定が非常に重要な要素となってくるのだ。

 健常な子ども達においては、腹部の緊張を上げる活動が苦手な子も多い。腕立て伏せが上手に出来なかったりする。これは筋力の問題ではなく、腹筋群の運動学習の問題である。

 例えばクライアントAの話をしよう。

 Aは子どもの頃から腹部の緊張を高める学習が充分ではなかった。だから、坐位を上手にとることができない。恐らくその事が集中力や作業効率にも影響しているが、職場では問題になるレベルではなかった。

 そして、脳卒中になってはじめて問題視されるのだが、療法士には元々は正常であった前提でアプローチされる。だが、獲得できない。

 何故ならこの人は運動学習を喪失したのではなく、獲得していなかったからだ。

 現在の臨床においてこのような事は無いだろうか?是非、自身のカルテを見なおしてみて欲しい。

まとめ

 安定した坐位の獲得は多くの作業を可能にするし、作業効率を上げる事に繋がる。

 しかし、思うように獲得できる人は少数ではないだろうか。

 それはもしかしたら療法士が問題点の列挙・抽出を間違えてしまったことによるかもしれない。もちろんあくまで可能性の話だ。

 だが、もしあなたの担当に坐位獲得可能なレベルなのにも関わらず、思うように効果が出せていなかったとしたらそのクライアントの発症前の坐位について情報を得てみる必要性があるだろう。

 ちなみに、ボクのサロンに訪れる方の多くが「猫背矯正」や「姿勢矯正」という検索ワードにて来店され、姿勢の悪さを自覚している方が多いという現状を付け加えておこう。

 是非とも可能性を探ってみて欲しい。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします