書評

脳卒中の理学・作業療法に携わる人に読んで欲しい1冊の本

 あなたは脳卒中患者がどのような世界に生きているか?を考えたことはあるだろうか?

 ボクは臨床で作業療法を提供していた頃、いや、実習生として患者と関わっていた時からそれに興味を持っていた。

 理由はわからないが、特に精神障害を持つ患者と関わる時には異常に興味が湧いた。

 しかし、ボクはそれが単純な知的好奇心からであったとしても、患者を良くしたいという気持ちからであっても、患者がどのような世界に生きているか?を考えることはリハビリテーションにおいて必須だと思っている。

 今回は、脳卒中患者がどのような世界に生きているかを、脳卒中になった脳科学者が克明に記録した一冊の本を紹介したい。

奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れた時

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

 脳科学者であるジル・ボルト・テイラー氏が自身の脳卒中になった瞬間から、回復してその後の人生を前向きに歩めるようになった過程を描いた唯一の科学書だと言っても良いかもしれない。

 脳卒中患者の手記や、家族の闘病記的なものは今までから合ったかもしれないが、それを脳科学や神経解剖学の知識を踏まえて専門的に解説している初めての本だと思う。

 我々セラピストがもしかしたら患者に害になっているのではないか?という所までリアルに書かれている。

 逆に彼女の辿った軌跡をボク達が援助することもできるかもしれない。

 もちろん、一患者の体験であり、全ての患者に当てはまることばかりではないと思うが、注意すべき点などは学べると思う。

この本から学べること

 この本は実に沢山の事を教えてくれる。脳のこと。患者とセラピストのあるべき関係性、治療手段などなど本当に様々だ。

 以下に、この書籍がボクに教えてくれたことを簡単にお伝えしようと思う。

脳の回復力の可能性

 あなたは脳の回復は何ヶ月までだと教えられただろうか?

 6ヶ月。

 テストにこういう問題が出たら6ヶ月が正解である。それ以外は不正解だ。

 しかし、彼女は8年以上の歳月をかけて復活している。発症後4年目には出来ていなかったことが5年目にできるようになり、更に難易度の高い活動もその後できるようになっているのだ。

 人間の脳の可能性を学ぶことができるだろう。

睡眠の重要性

 発症後2年とか、3年とか経過している患者はあなたにとっては慢性期の患者かもしれない。

 しかし、慢性期の患者であっても脳が回復する可能性は十分にあるのは先に述べた通りだ。彼女はその睡眠の重要性を知識的にではなく、体感的に悟っている。

 彼女が復職した直後は1日11時間の睡眠が必要だったことを綴っている。そして、それが9時間でも大丈夫になった事も。

 寝ている間に記憶が整理されるという話は聞いたことがあるかもしれないが、睡眠は脳が急速する唯一の方法である。

 我々は運動することも、頭を使う事もそれをしないという選択ができる。しかし、脳卒中は起きているだけで大きなエネルギーを消耗する。

 生きているだけで精一杯なのだ。そんな状況にあるにも関わらず、決まった時間に起こされ、寝過ぎはダメだと言われれば患者は脳の回復に当てる時間がなくなってします。

 眠れたと思えば食事に起こされ、眠れたと思えばリハビリに起こされ、眠れたと思えばお見舞い客に起こされ、眠れたと思えば大きな声やテレビの音に起こされる。

 そのような環境においては患者は回復する暇がなく、もちろん意欲も湧いてこないだろう。

 患者の睡眠をしっかり守ることが重要だということがわかった。

再学習という考えは運動だけではない

 運動学習という考えが出てきてから、リハビリテーションにおいても障害をおった機能を再学習させるという考えに基づきリハビリテーションが行われるようになった。

 しかし、それは運動に限ったことではない。

 認知機能も同様なのである。

 脳卒中によって死んでしまった細胞が蘇ることはきっと今後もないだろう。

 しかし、脳は新たな回路を形成することができる。

 文字を失ったのであれば、文字を再学習すれば良いのだ。

 これは根気のいる作業である。しかし、再学習が可能であるという事を患者もセラピストも信じ取り組む事が必要になる。

 子どもはそれを、ほぼ自分の力で学習していく。親は子どもの学習の手助けをするのだ。

 親は子どもに安全に遂行する方法を教えないと行けないし、危険の可能性を教えなければならない。教材が必要であればそれを与え、環境が必要であれば用意してあげなければならない。

 ボクはつい先日、4歳の娘に初めてのお使いをさせた。大きな交差点を渡る為、今まで行っていなかったが娘がやりたがったので遂に決行したのだ。

 その時に教えた情報は山のようだ。向かう店、向かい方、買うもの、買い方、横断歩道について、車の危険性についてなどなど、そしてボクは娘がエレベーターで降りる隙に、非常階段を猛ダッシュで降り、娘の後をつけ、無事帰るのを見届けた後、非常階段を猛ダッシュで駆け上り娘を迎える。笑

 しかし、リハビリテーションもこうでなくてはいけないのだ。

 文字の認識を再学習させたければ、本を読み聞かせるところから始めないといけないし、外を歩く時には段差の危険性を伝えなければならない。

 ボク達は(作業療法士であっても)運動面に目が行きがちで、認知面を考えない傾向にあるように思う。できない原因を運動に求めすぎる傾向がある。しかし、実際はそれだけではない。患者の認知面の評価をしっかりとする必要があるだろう。

その他学べる事

 もちろん、ボクがこの本から学んだのはそれだけではない。もっと沢山のことが学べる。

 しかし、ここで書ききれるものではないので、実際は書籍を読んで欲しい。

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

 ここでは、書籍の付録にある彼女が脳卒中から回復するために『最も必要だった40の事』という部分を参考に、学べることの一覧を作っておく。

  • 患者はバカなのではない。傷をおっているのだ。患者を軽んじるべきではない。
  • ゆっくり話、はっきり発音してほしい。
  • 言葉は繰り返して話して。何も知らない前提で丁寧に。
  • 同じことを何十回も伝える忍耐力をもって欲しい。
  • 患者のペースに合わせてほしい。
  • あなたが伝えたいことは患者には伝わっていることを知ってほしい。
  • 視線を合わせて。
  • 大きな声でしゃべらないで。
  • 患者に触れて思いを伝えて。
  • 運動感覚を通じて世界を認識する手伝いをして。
  • 見よう見まねのやり方で教えて。
  • 患者に話すべきことを他人(例えば家族)に向かって話さないで。
  • 脳は常に学び続けることができる。
  • すべての行動を小さなステップに分けて。
  • 何が問題になっているのか見極めて。
  • 次のレベルやステップを明確に教えて。
  • 小さな成功を讃えて。
  • 私の言葉を補足しないで。
  • できないことではなく、できることに焦点を当てて。

 特にリハビリテーション関係者において重要で、心当たりのある部分があると思われるポイントをピックアップした。

 心当たりのある方はぜひ読むべきだろう。

まとめ

 患者は世界をどのように捉えているのか?

 あなたが感じている世界と、患者が感じている世界は別物である。

 これは健常者と障害者の差だけではなく、ボクとあなたの間にもある差である。

 脳卒中になると、その世界を知覚する脳を損傷するわけだから、その差は大きくなるだろう。

 患者はどのような損傷があり、どのようにしか世界を知覚できないのか?あなたは、治療を行う前に知ろうとしなければいけない。

 そして、今回紹介したこの書籍は、脳卒中患者の世界を知るのには良い参考書である。是非とも手にとってあなたの引き出しを増やして欲しいと思う。

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします